相続手続きをする時間がなくて放置してしまった場合や、面倒くさくて相続手続きをしなかった場合、遺産はどうなってしまうのでしょうか?
実は相続手続きをしないことによるデメリットやリスクは割と身近にたくさんありますのでご紹介します。
相続手続きをしないことで発生するデメリットとリスク
相続手続きをしないで放置した場合に発生する身近なデメリットやリスクをあげてみると下記のようなものがあります。
- 借金を相続してしまう危険性
- 株式の権利がなくなってしまう
- 不動産の相続登記をしないと過料が課せられる
- 相続税の延滞税が課せられる可能性
- 遺留分侵害額請求権が時効で消滅してしまう
- 相続回復請求権が時効で消滅してしまう
- 埋葬料、葬祭費がもらえなくなってしまう
身近な例でもこれだけのリスクがあります。どれも知ると怖いことばかりです。それぞれの内容を解説していきます。
借金を相続してしまうリスク
亡くなった方(被相続人)に借金があった場合、相続開始を知った時から3か月以内に相続放棄や限定承認をしないと相続人が借金を返済する義務が生じます。これは相続財産を単純承認したとみなされるからです。
単純承認とは相続財産をすべて無条件に相続するという意味で、この相続財産には債務も含まれます。
相続開始から3か月以内に相続放棄や限定承認をしないと自動的に単純承認したものとみなされるので、借金している地位も継承します。
面倒だからという理由で相続手続きを行わないと、借金を背負う危険性がありますので、被相続人に借金がある場合には要注意です。
預貯金を引き出す権利がなくなってしまう
亡くなった方の預貯金は解約手続きを行い、預貯金を払い戻してもらう必要があるのですが、この手続きをしないで5年間放置すると払戻し請求権が消滅してしまいます。そして10年間放置すると、その預貯金は休眠預金として扱われ、預金保険機構へ移管されてしまう可能性があります。
金融機関によっては10年経過していても払戻し対応してくれる場合もあるようですが、民法上の規定では権利行使できることを知ったときから5年、権利行使できるときから10年間行使しないときには権利が消滅すると定められていますから、払戻しを受けられなくなる可能性が十分にあります。
預貯金を相続したいのであれば、早めに相続手続きをする必要があります。
株式の権利がなくなってしまうリスク
亡くなった方が株を保有していた場合、株式の名義変更手続きが必要となりますが、この手続きをおこなわないと配当金が受け取れなかったり、株主としての権利行使もできません。
さらには5年間放置すると、株式発行会社が株主所在不明として扱い、売却されたり会社に買い取られてしまう可能性があります。
不動産の相続登記をしないと過料が課せられる
2024年4月1日から不動産の相続登記が義務化されます。相続によって不動産を取得したときから3年以内に正当な理由なく登記を怠った場合、10万円以下の過料が課せられる可能性があります。
不動産を相続登記しないまま放置しておくと、次の相続が発生したときに、次世代に相続権が移っていきますが、相続の回数が増えてくると、関与する相続人がねずみ算式にどんどん増えますので、その分集める書類も多くなりますし、相続人全員での遺産分割協議をすることがままならなくなる場合が多くあります。
2020年の国土交通省の調査によると、全国の土地のうち、登記簿上で所有者不明の土地の割合は24%となっており、老朽化した空き家が増えていて、倒壊しそうで危険性があっても所有者が分からず、行政が対応できないと社会問題になっています。
そこでこのような状況を改善するために、不動産の相続登記を義務化することになりました。
過ち料がかかることのほかにも、相続登記せずに不動産を放っておくと、知らないうちに他の誰かが登記してしまい、不動産の所有権を失ってしまう可能性もあります。不動産の所有権は登記をしなくては主張することができませんので、所有するなら登記が必須となります。
相続税の延滞税が課せられる可能性
相続開始から10か月以内に相続税の申告をしなくてはいけませんが、もし相続手続きを放置し相続税申告を怠っていると延滞税や無申告加算税が課せられ、余計に税金を支払わなくてはならなくなります。
税務署から納付の督促状が来ても相続税を払わず、無視してしまうと滞納処分を受けてしまいます。滞納処分を受けると財産の差し押さえされてしまったり、大切なものも競売にかけられてしまうこともあります。
やむを得ない事情があれば延滞税が課せられない場合もありますが、天災等によって納税ができなかった場合などが対象ですから、めんどくさくて相続手続きしなかった場合にはもちろん免除されませんし、相続人が多すぎて話がまとまらなかったなどの個々の理由も免除の対象外です。
遺留分侵害額請求権がなくなってしまう
各法定相続人には民法で定められた、最低限保証される相続分があります。これを遺留分と呼びますが、被相続人が遺言を残していた場合や、生前に贈与していた場合など、本来だったら保証されている相続分を受け取ることができない場合があります。
その時に遺留分を侵害したとして、遺産を受け取った相手方に、侵害された額に相当するお金を支払うよう請求ができます。これを遺留分侵害額請求といいます。
遺留分侵害額請求ができる期間は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内に権利行使をしないと、請求権が消滅してしまいます。また、相続開始から10年たった場合にも時効で消滅してしまいます。
本来だったらもらえるはずの遺産も、相続手続きを放置すると権利自体が消滅し遺産をもらえなくなってしまいます。
遺留分については下記の記事で解説していますので、よろしければ参考にしてみてください。
相続回復請求権がなくなってしまう
遺留分侵害額請求権と似ているのですが、相続回復請求権というものがあります。こちらは相続権がないにも関わらず、相続人であるとみせかけて遺産を占有している者がいる場合、相続財産の返還を請求できる権利です。
相続回復請求権にも時効があり、相続権の侵害を知ってから5年以内に請求をしない場合には消滅時効にかかります。また、相続開始から20年が経過した段階でも時効で権利が消滅します。
埋葬料、葬祭費がもらえなくなってしまう
葬儀の費用として、年金機関やお役所からもらえるお金があります。葬祭費、埋葬料と呼ばれている物です。葬祭費の金額は自治体によって金額が変わりますが、神奈川県だと大体5万円前後となっています。
埋葬料と葬祭費は申請すればもらえるお金なのですが、面倒だからといって手続きしないでいると、葬儀から2年経過したときに時効で消滅してしまいます。
せっかくもらえるお金ですから手続きを忘れずに行いたいですね。
身近なリスクやデメリットだけでもこんなにたくさんあります。
手続きを放っておくと、いざ相続したいと思ったときにはもう遅かったということもあり得ます。相続手続きは早めに行うことをおすすめします。
相続手続きの種類と期限
相続手続きを放置すると、権利を失ってしまうものが多くあることが分かりました。今までご紹介したデメリットとリスクに合わせて代表的な相続手続きで期限があるものをご紹介します。
- 死亡届 7日以内
- 相続放棄、限定承認 3か月以内
- 準確定申告 4か月以内
- 相続税の申告と納税 10か月以内
- 遺留分侵害額請求 1年以内
- 埋葬料や葬祭費の請求期限 2年以内
- 不動産の相続登記 3年以内
- 預貯金、株式の権利 5年~10年
- 相続回復請求権 5年
相続手続きの期限と流れの図
一般的な相続手続きの流れと期限は、上記の図の通りとなります。相続開始から10か月の期限のある相続税申告に向けて、財産調査と遺産分割協議を進めていくのが一般的です。
相続税申告と納付が終わってしまえば、あとは不動産の名義変更と銀行や株式などの遺産を分割していきます。これらの手続きは不動産の名義変更が3年以内という期限がありますが、後回しにしてしまうと忘れてしまう可能性もありますので、早めに動いたほうが良いでしょう。