相続と遺贈は、どちらも亡くなった方の遺産を取得することですが、相続は民法で指定されている法定相続人(配偶者、子、親、兄弟姉妹など)が遺産を継承取得することを指します。

遺贈は遺言書で法定相続人以外の第三者を財産の受け取り人に指定した場合を指します。そして遺贈を受ける人のことを受遺者と呼びます。

例えば夫Aが亡くなったケースで見てみましょう。

夫Aの法定相続人は妻Bと子C、遺産額が5,000万円だったとしましょう。この夫Aは生前に遺言書を残しており、その中に「預金1,000万円を生前お世話になったY子さんに遺贈します。」と記載されていた場合にはY子さんは遺贈を受ける受贈者となり、遺産額の5,000万円のうち、1,000万円をもらうことができます。Y子さんが1,000万円を受け取った場合には、残りの遺産である4,000万円を法定相続人の妻Bと子Cで分けることになります。

「遺贈」と似たような言葉に「贈与」という言葉もあります。こちらについても大きな違いがありますので後述します。

遺贈とはなに?

遺贈は法定相続人以外に財産を継承したい場合に、遺言書によって財産の受取人を指定することを指します。そして財産の受取人とされている者を「受遺者」と呼びます。

遺言書がない場合には民法で定められている法定相続人が財産を継承していくこととなります。これが「相続」です。しかし遺言書で法定相続人以外のものが受取人になっている場合には「相続」ではなく「遺贈」にあたります。

つまり法定相続人以外の人(第三者)が遺産を取得することを遺言書であらかじめ指定されている場合が「遺贈」となります。

法定相続人を受遺者にすることはできないので、法定相続人以外であれば誰でも自由に受遺者を指定することができます。

法定相続人に関しては下記の記事に詳細を記していますので参考にしてみてください。

受遺者は遺贈を放棄できる?

亡くなった方が遺言書で受遺者を指定していた場合でも、受遺者が財産を継承したくないと思うことがあると思います。この場合受遺者は遺贈を放棄することができます。

遺言書で遺贈を指定することは亡くなった方の一方的な意思表示ですから、受遺者に指定された方は財産を受け取るか否かの判断を自由にすることができます。

包括遺贈と特定遺贈の違いと放棄の方法

遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」があり、どちらの遺贈なのかによって、放棄の手続きが変わってきます。また受遺者が放棄した後の財産は法定相続人が遺産分割協議を行って分けていくことになります。

包括遺贈とは?包括遺贈の解説と放棄方法

包括遺贈とは、「遺言者の有する財産の全部を遺贈する」や「私の全財産の2分の1を遺贈する」といった書き方がされている場合を指します。個々の財産を特定しないで財産の全部または一部を包括的に遺贈する方法です。

包括遺贈の放棄は、遺言者の最後の住所を管轄している家庭裁判所に放棄の申述をすることで放棄することができます。放棄をすることができる期限は「自分のために相続が開始されたことを知った日から3か月以内」となります。

民法第915条

  1. 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
https://elaws.e-gov.go.jp/

特定遺贈とは?特定遺贈の解説と放棄方法

特定遺贈は個々の財産を指定して、特定の財産だけを継承させる方法です。遺言書には具体的な財産の名称と金額などが書かれている必要があります。個々の財産が指定されている場合は特定遺贈となり、指定された財産の放棄は簡単で、遺言執行者や相続人に対して放棄する旨の意思表示をすることで放棄することができます。

遺贈と死因贈与の違い

遺贈と似たような言葉で「贈与」という言葉があります。どちらも財産を人に与える方法を指しますが、遺贈と贈与の違いは契約か否かです。

遺贈は遺言書で財産をあげるという一方的な意思表示ですが、贈与は契約となります。そのため贈与は財産をあげる側と受け取る側双方の同意が必要となります。

贈与は生前贈与と死因贈与があり、生前贈与はよく耳にする方も多いのではないでしょうか。生前贈与は生きているうちに財産を特定の人にあげる契約ですが、死因贈与は自分が死んだら財産をあげるという内容の契約となります。

贈与は契約となりますので、未成年者はすることができません。対して遺贈は遺言者の一方的な意思表示ですので受け取る側の人の年齢制限はありません。

負担付死因贈与とは?

死因贈与の中でも、負担付死因贈与というものがあります。これは受贈者(贈与を受ける者)に対して何らかの義務や負担をくっつけて、義務を履行したなら財産をあげるという契約を交わすことを指します。

良く自分の面倒を見てくれている人に対して財産をあげたいなと考えている場合に「死ぬまで自分の介護をしてくれたなら、財産をあげる。」という契約を交わすことがあります。契約ですから相手にきちんと財産を継承することができますし、相手側も死ぬまで贈与者の介護をするという義務(負担)が生じます。

遺贈したいときに注意すべきポイント

第三者に遺産を残したいと思ったとき、遺言書に財産を特定の人に遺贈する旨を書き残すことで第三者に遺産を継承することができます。しかしよく問題となるのは法定相続人の相続権です。

法定相続人には最低限の遺産をもらえる権利が民法で規定されています。これを遺留分といいます。遺留分を考えずに遺言書を作成してしまうと、法定相続人は遺留分を侵害されたとして争いになってしまうことがあります。

遺言を書くときには、法定相続人の遺留分を侵害しないように気を付ける必要があります。遺言書を書くことを検討しているのであれば、大切な遺産を争いなく継承してもらいたいですよね。専門家に相談することで後の争いを防ぐ遺言書の作成ができますので、作成を検討している方は相談してみるのがおすすめです。

遺留分については下記の記事で解説しておりますので、よろしければ参照ください。

遺言書を作成する際には、専門家に相談したほうが、より安心して遺産を継承することができます。遺言書を作成するのであれば一度ご相談してみると良いかもしれませんね。