相続人が認知症でも、遺産分割協議の内容を理解し、判断する能力があれば、協議に参加できます。判断能力が不十分な場合は、本人に代わって遺産分割をする代理人が必要です。代表的な方法は、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらうことです。

ただし、成年後見人は遺産分割が終わった後も、原則として本人が亡くなるまで続きます。専門家が後見人になった場合は、その間ずっと報酬を支払うことになります。後見人を付けずに遺産分割を進めたい場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、その調停の中だけ本人を代理する特別代理人を選任してもらう方法もあります。

また、遺言書がある場合や、不動産を法定相続分どおりに共有登記する場合などは、遺産分割協議をせずに手続きを進められることがあります。この記事では、それぞれの方法と注意点を、行政書士がわかりやすく解説します。

安心できる遺産分割をするために

元気なうちに遺言書を作れば、遺産分割協議をせずに済む可能性があります

相続人の中に認知症の方がいると、相続が始まってからの手続きは、成年後見人の選任など家庭裁判所の手続きが必要になり、時間も費用もかかります。財産を残す方が元気なうちに遺言書を作っておけば、こうした手続きをせずに相続を進められる可能性があります。

認知症の相続人がいるときの確認の順番

  1. 本人に判断能力があるか判断能力があれば、認知症でも遺産分割協議に参加できます。
  2. 遺産分割協議が必要か遺言書がある、不動産を法定相続分で登記するなど、協議をしなくてよい場合があります。
  3. 協議が必要なら、代理人を立てる基本は成年後見人です。後見人を付けたくない場合は、遺産分割調停で特別代理人を選任してもらう方法もあります。
  4. 後見人も相続人なら、特別代理人を申し立てる遺産分割協議書の案を添えて、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てます。
Contents
  1. 相続人が認知症だと遺産分割協議はできない?
    1. 判断能力が残っていれば認知症でも協議に参加できる
    2. 判断能力がない相続人を含めた遺産分割協議は無効になる
  2. はじめに確認しよう|遺産分割協議が必要か否か
    1. 遺言書があれば協議をせずに相続手続きができる
    2. 不動産は法定相続分どおりなら協議なしで登記できる
    3. 預貯金は仮払い制度で一部だけ引き出せる
  3. 認知症の相続人がいるときは成年後見人を立てるのが基本
    1. 成年後見人は認知症の相続人の取り分を守る立場で協議に参加する
    2. 成年後見人の選任にかかる期間と費用
    3. 一度付けた成年後見人は相続が終わっても続く
  4. 後見人を付けずに遺産分割する方法|遺産分割調停で特別代理人を選任してもらう
    1. 特別代理人は遺産分割調停の中だけ本人を代理する
    2. 費用は一時的で、継続的な報酬はかからない
    3. 認められるかは家庭裁判所の判断による
  5. 成年後見人も相続人のときは特別代理人が必要
    1. 利益相反とは|母が認知症で長男が後見人の場合
    2. 特別代理人の選び方と後見監督人がいる場合
  6. 家庭裁判所の手続きは司法書士・弁護士に相談を
  7. これから相続が起きる家族へ|元気なうちにできる対策
    1. 遺言書を作っておくのがいちばん確実
    2. 任意後見は、将来の代理人を本人が選ぶ方法
    3. 家族信託は、託した財産の管理に備える方法
  8. よくある質問
  9. まとめ

相続人が認知症だと遺産分割協議はできない?

相続人が認知症と診断されていても、遺産分割の内容を理解し、自分の意思で判断できる状態であれば、遺産分割協議に参加できます。一方、協議の時点でそのような判断能力がない場合、本人の署名や押印があっても、協議は無効になります。

大切なのは、認知症という診断名だけで判断するのではなく、協議を行うときの本人の状態を確認することです。

判断能力が残っていれば認知症でも協議に参加できる

遺産分割協議では、相続人全員が、誰がどの財産を相続するかについて話し合い、合意します。認知症の相続人も、遺産の内容や分け方、合意によって自分が受け取る財産がどうなるかを理解し、判断できるのであれば、自ら協議に参加できます。

たとえば、不動産や預貯金の分け方について説明を受け、その内容を理解したうえで、自分の希望を伝えられるかどうかが確認の目安になります。ただし、日常会話ができることや、名前を書けることだけで、遺産分割の内容を判断できるとは限りません。

判断能力に不安があるときは、本人の普段の様子や協議内容を伝えたうえで、主治医に相談する方法があります。必要に応じて診断書などを検討することもできますが、認知症の相続人が協議に参加するたびに、必ず診断書が必要になるわけではありません。

認知症の症状には個人差があり、体調などによって状態が変わることもあります。過去の様子だけで判断せず、協議を行う時点で、本人が内容を理解できているかを丁寧に確認しましょう。

判断能力がない相続人を含めた遺産分割協議は無効になる

遺産分割協議の時点で、相続人がその内容を理解し、自分で判断する能力を欠いていた場合、その本人が参加した協議は無効です。本人が遺産分割協議書に署名・押印していたとしても、判断能力がなければ有効な合意にはなりません。

また、本人の判断能力が不十分だからといって、ほかの相続人が代わりに署名・押印したり、本人を除いて話し合ったりしても、有効な遺産分割協議にはできません。判断能力がない場合には、本人を法律上代理できる人が遺産分割に参加する必要があります。

協議の有効性が問題となった場合は、診断名だけではなく、協議当時の症状や生活状況、協議の内容などを踏まえて判断されます。

はじめに確認しよう|遺産分割協議が必要か否か

相続人の中に認知症の方がいても、すべての相続で遺産分割協議が必要になるわけではありません。まずは遺言書の有無と内容、遺産の種類、相続人が何を取得する予定なのかを確認しましょう。

状況遺産分割協議の要否
有効な遺言書で遺産の取得先が指定されている指定された遺産については、原則として協議は不要です。
遺言書に記載されていない遺産があるその遺産の分け方を決めるには、原則として協議が必要です。
不動産を法定相続分どおりの共有名義で登記する遺産分割協議をせずに登記できます。
預貯金の一部を仮払い制度で引き出す上限額の範囲内であれば、協議の前でも各相続人が手続きできます。
相続人が1人だけであるほかに協議する相手がいないため、遺産分割協議は不要です。

協議が不要な場合でも、相続人の判断能力や手続きの内容によっては、財産を管理・処分するための代理人が必要になることがあります。

遺言書があれば協議をせずに相続手続きができる

亡くなった方が有効な遺言書を残し、財産を誰に取得させるかを指定している場合は、指定された財産について、原則として遺産分割協議をする必要はありません。認知症の相続人がいる場合も同様です。

例えば、「自宅の土地と建物を長男に相続させる」と指定されていれば、その不動産については、原則として遺言に従って相続登記を進めます。

一方、遺言書に記載のない財産がある場合は、その財産の分け方を決めるために、原則として相続人全員による遺産分割協議が必要です。遺言書で特定の財産だけが指定されているときは、ほかの財産についても指示があるか確認しましょう。

また、遺言の内容とは異なる分け方を希望する場合は、遺言執行者の有無などによって対応が異なります。相続人だけで進められると判断せず、専門家に確認することをおすすめします。

遺言書を見つけたら、作成方法も確認してください。自宅などで保管されていた自筆証書遺言は、開封せずに家庭裁判所で検認を受ける必要があります。公正証書遺言と、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した遺言書は、検認が不要です。

不動産は法定相続分どおりなら協議なしで登記できる

遺産に不動産があり、遺産分割協議で取得者を決めていない場合でも、各相続人の法定相続分に応じた共有名義で相続登記を申請できます。この登記は、相続人の1人から申請することも可能で、遺産分割協議書は必要ありません。

例えば、相続人が配偶者と子2人の場合、それぞれの法定相続分は、配偶者が2分の1、子が各4分の1です。この割合を持分として登記する方法があります。法定相続分の考え方は、法定相続人と法定相続分の解説記事で詳しく紹介しています。

ただし、法定相続分で登記すると、不動産は相続人の共有になります。その後に不動産を売却したり、遺産分割で特定の相続人の単独名義にしたりする際は、相続人それぞれの対応が必要です。判断能力がない相続人がいる場合は、その方に代わって手続きをする代理人が必要になることもあります。

また、不動産を法定相続分で登記しても、預貯金など、ほかの遺産の分け方まで決まるわけではありません。

相続登記は、不動産を相続したことを知った日から、原則として3年以内に申請する義務があります。遺産の分け方がすぐに決まらない場合も、期限を確認しておきましょう。

預貯金は仮払い制度で一部だけ引き出せる

預貯金は、法定相続分どおりに分ける場合でも、原則として遺産分割が終わるまで、相続人が自分の分だけを引き出すことはできません。多くの金融機関では、相続人全員の署名・押印がある書類や遺産分割協議書などを求められます。

ただし、葬儀費用や当面の生活費などのために、遺産分割が終わる前でも、各相続人が単独で一定額まで払い戻しを受けられる「預貯金の仮払い制度」があります。払い戻せる額は、口座ごとに「相続開始時の預貯金額×3分の1×その相続人の法定相続分」で、1つの金融機関につき150万円が上限です。

仮払い制度は預貯金の一部を引き出すための仕組みで、預貯金全体の分け方を決めるものではありません。必要な書類は金融機関によって異なるため、事前に確認しましょう。預貯金の相続手続きの流れは、預貯金の相続手続きの解説記事も参考にしてください。

認知症の相続人がいるときは成年後見人を立てるのが基本

認知症の相続人に遺産分割の内容を判断する能力がなく、協議が必要な場合は、本人に代わって遺産分割をする代理人が必要です。基本となるのは、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てる方法です。

ただし、成年後見人は遺産分割が終わった後も続くため、費用や手間の負担が長く続きます。後見人を付けずに進める方法については、次の章で解説します。

成年後見人は認知症の相続人の取り分を守る立場で協議に参加する

成年後見人は、認知症の相続人本人の利益を守る立場で遺産分割協議に参加します。他の相続人の希望だけを優先して、本人の取り分を決めることはできません。

法定相続分は分割を考える際の重要な基準です。一方で、実際の分け方は、遺産の内容や相続人それぞれの事情なども踏まえて検討します。本人が法定相続分より少ない財産を取得する内容では、その必要性や本人にとっての利益を慎重に確認する必要があります。

たとえば、介護費用に充てる預貯金が必要な本人に代わり、家族が「手続きを簡単にするため、本人の相続分をゼロにしたい」と考えても、その希望どおりに協議が進むとは限りません。

成年後見人は、家庭裁判所が本人の状況を踏まえて選任します。親族を候補者として申し立てることはできますが、希望した人が必ず選ばれるわけではありません。弁護士や司法書士などの専門職が選任されることもあります。

なお、本人の判断能力の程度によっては、成年後見ではなく保佐や補助が利用される場合もあります。保佐人や補助人が遺産分割を代理するには、別途、代理権を付与する審判が必要です。

成年後見人の選任にかかる期間と費用

成年後見開始の申立ては、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。本人の配偶者や四親等内の親族などが申し立てることができます。

選任までの期間は、書類の準備状況や家庭裁判所の調査、鑑定の要否などによって異なります。遺産分割の予定に合わせてすぐに選任されるとは限らないため、余裕を持って準備しましょう。主な費用は次のとおりです。

費用の種類内容
申立て時の費用収入印紙代、登記用の印紙代、連絡用の郵便切手代などがかかります。
書類の取得費用戸籍謄本や住民票、医師の診断書などの取得費用がかかります。
鑑定費用家庭裁判所が本人の判断能力について鑑定を行う場合にかかります。すべての申立てで必要になるわけではありません。
後見人の報酬後見人が報酬を求めた場合、家庭裁判所が仕事内容や本人の財産状況などを考慮して決めます。東京家庭裁判所が公表している目安では、基本報酬は月額2万円程度、管理する財産が多い場合は月額3万〜6万円程度です。報酬は本人の財産から支払われます。
専門家への依頼費用申立書類の作成や代理などを専門家に依頼する場合は、別途費用がかかります。

必要な書類や郵便切手の金額などは、申立先の家庭裁判所に確認してください。選任後の負担も含めて、本人の財産から支払えるかを考えておくことが大切です。

一度付けた成年後見人は相続が終わっても続く

成年後見人の仕事は、遺産分割だけではありません。相続後も、本人の預貯金の管理や介護サービスの利用契約など、本人の生活を支えるための事務を行います。

そのため、遺産分割協議が終わったという理由だけで成年後見を終了することはできません。本人の判断能力が回復して後見開始の審判が取り消された場合や、本人が亡くなった場合などに終了します。

専門家が後見人になった場合は、本人が亡くなるまで報酬を支払い続けることになります。たとえば月額2万円の場合、1年で24万円、10年で240万円です。「遺産分割のためだけに後見人を付けたい」と考えている場合は、この負担も踏まえて検討しましょう。

成年後見人は家庭裁判所の監督を受け、財産の状況や行った仕事を報告します。後見人の選任を検討するときは、相続手続き後の本人の生活や財産管理も見据えて考えましょう。

なお、2026年6月に成年後見制度を見直す改正民法が成立し、必要な範囲・必要な期間に限って制度を利用できる仕組みに変わる予定です。施行は公布(2026年6月24日)から2年6か月以内とされており、それまでは現在の制度で手続きを進めることになります。

後見人を付けずに遺産分割する方法|遺産分割調停で特別代理人を選任してもらう

成年後見人を付けると、遺産分割後も後見が続き、報酬などの負担も続きます。遺産分割を成立させることだけが目的であれば、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、判断能力を欠く相続人について特別代理人を選任してもらう方法を検討する価値があります。

遺産分割調停とは、家庭裁判所で、調停委員を交えて遺産の分け方を話し合う手続きです。相続人だけで行う遺産分割協議とは異なり、裁判所の手続きの中で話し合います。

特別代理人は遺産分割調停の中だけ本人を代理する

この方法で選任される特別代理人は、その遺産分割調停においてのみ、認知症の相続人を代理します。調停が終われば役目も終わるため、成年後見人のように、本人の財産管理を続けることはありません。

調停で合意が成立すると、家庭裁判所が調停調書を作成します。調停調書を使って、預貯金の解約や不動産の相続登記などの手続きを進めることができます。

項目成年後見人調停の特別代理人
選任の手続き家庭裁判所に成年後見開始を申し立てる遺産分割調停の中で選任してもらう
代理する範囲遺産分割のほか、財産管理や生活に必要な契約などその遺産分割調停の手続きのみ
続く期間原則として本人が亡くなるまで調停が終わるまで
継続的な報酬専門家が後見人の場合は払い続けるかからない

費用は一時的で、継続的な報酬はかからない

特別代理人の選任には、報酬などの費用がかかります。費用の目安として10万円程度を挙げる専門家もいますが、事案や家庭裁判所によって異なります。いずれにしても、成年後見人のように毎月の報酬を払い続ける必要はありません。

ただし、遺産分割調停の申立てには、収入印紙や郵便切手などの費用もかかります。弁護士に手続きを依頼する場合は、その費用も必要です。

認められるかは家庭裁判所の判断による

この方法の根拠は、家事事件手続法第19条1項です。ただし、この条文が特別代理人の選任を定めているのは、「未成年者又は成年被後見人」について法定代理人がない場合などです。

後見開始の審判を受けていない認知症の方について選任できるかは、条文に明確には書かれていませんが、判断能力を欠く常況にあれば、家事事件の手続きで特別代理人を選任し得ると解されています。しかし家庭裁判所によっては特別代理人の選任を認めず、成年後見人の選任を求める運用がとられることもあります。

そのため、この方法を検討する場合は、家庭裁判所の手続きに詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

成年後見人も相続人のときは特別代理人が必要

すでに成年後見人がいて、その後見人も同じ遺産の相続人である場合は、原則として家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てます。後見人が自分自身と本人の両方の立場で遺産分割協議に参加すると、互いの利益が対立するためです。

この特別代理人は、前の章で解説した調停の特別代理人とは別の制度です。すでに成年後見人がいる場合に、遺産分割協議のために選任されます。なお、成年後見監督人が選任されている場合は、原則として後見監督人が本人を代理します。

利益相反とは|母が認知症で長男が後見人の場合

利益相反とは、一方の利益を増やすと、もう一方の利益が損なわれる関係にあることです。遺産分割では、相続人の一人が多くの財産を取得すると、ほかの相続人が取得できる財産は少なくなります。

例えば、父が亡くなり、相続人が母、長男、次男の3人で、長男が母の成年後見人を務めている場合を考えてみましょう。遺言書がなく、法定相続分に従う場合の割合は、次のとおりです。

相続人立場法定相続分
母認知症の本人2分の1
長男母の成年後見人4分の1
次男相続人4分の1

この場合、長男が自分の取り分を決めながら、母の代理人としても遺産分割協議に参加することはできません。長男に母を不利にする意図がなくても、両者の利益が対立する立場にあるためです。

特別代理人が選任されると、長男は自分自身の相続人として、特別代理人は母の代理人として遺産分割協議に参加します。

特別代理人の選び方と後見監督人がいる場合

成年後見監督人がいない場合は、成年後見人や利害関係人が、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てます。候補者を挙げることはできますが、実際に選任するのは家庭裁判所です。

候補者には、本人と利益が対立せず、本人の立場で協議できる人を考えます。相続人ではない親族のほか、弁護士や司法書士などの専門家が選任される場合もあります。同じ遺産を分け合う相続人は、本人と利益が対立するため、特別代理人の候補者としては適しません。

申立てでは、戸籍などの関係書類や、遺産の内容が分かる資料のほか、遺産分割協議書の案を提出します。家庭裁判所は、協議案の内容が本人にとって不利益でないか、候補者が適任かを確認して、選任を判断します。本人の法定相続分を確保する内容でない場合は、その理由の説明を求められたり、選任が認められなかったりすることがあります。必要書類や費用は申立先の家庭裁判所に確認しましょう。

一方、成年後見監督人が選任されている場合は、後見人と本人の利益が相反する遺産分割について、原則として後見監督人が本人を代理します。後見監督人自身も相続人であるなど、本人との間に利益相反が生じる場合は、そのまま代理できるとは限りません。手続きについて家庭裁判所に確認してください。

特別代理人については、特別代理人の解説記事でも紹介しています。

家庭裁判所の手続きは司法書士・弁護士に相談を

認知症の相続人の判断能力が不十分で、成年後見人や特別代理人の選任、遺産分割調停などを申し立てる必要がある場合は、家庭裁判所の手続きが中心になります。これらの手続きは、行政書士が代わりに行うことはできません。手続きごとの主な相談先は、次のとおりです。

必要な対応主な依頼先
家庭裁判所に提出する申立書類の作成司法書士または弁護士に相談できます。司法書士は書類作成を支援しますが、家庭裁判所への申立代理人にはなれません。
家庭裁判所への申立代理弁護士に依頼できます。なお、法律上申立てが認められている親族などが、自ら申し立てることもできます。
遺産分割調停への対応や相続人間の紛争調停で特別代理人の選任を求める場合や、意見が対立し、代理人による交渉が必要な場合は、弁護士に相談します。
相続登記や相続税申告相続登記は司法書士、相続税の申告が必要な場合は税理士に相談できます。

相談する際は、相続人の判断能力について心配があることを、最初の段階で伝えてください。どの手続きが必要かによって、相談先や費用が変わります。

これから相続が起きる家族へ|元気なうちにできる対策

相続人になる方が認知症になることに備えるには、財産を残す方や、相続人になる方が元気なうちに準備しておくことが大切です。ここでは、代表的な3つの方法を紹介します。

遺言書を作っておくのがいちばん確実

将来、相続人になる方が認知症になることに備えるなら、財産を残す方が、生前に遺言書を作成しておく方法があります。誰にどの財産を承継させるかを明確にしておくことで、相続開始後に遺産分割協議を行わずに手続きを進められる可能性があります。

遺言書を作成するのは、認知症になる可能性がある相続人ではなく、財産を残すご本人です。すでに財産を残す方が亡くなっている場合は、その方の遺言書を新たに作ることはできません。

遺言書を作る際は、不動産の所在地や預貯金の金融機関などを確認し、財産と承継する人を特定できるように記載します。記載がない財産が残ると、その財産の分け方について相続人同士の協議が必要になる場合があるため、作成後に取得した財産も含めて定期的に内容を見直すことが大切です。

遺言書には法律で定められた方式があり、方式を満たさない場合は無効になります。公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言であれば、方式の不備を避けやすくなります。また、遺言の内容を実現する遺言執行者を指定しておくことも、相続手続きを進めるうえで役立ちます。

遺言をするには、作成時に、遺言の内容やその結果を理解できる能力が必要です。ご本人に認知症の診断がある場合でも直ちに遺言ができなくなるわけではありませんが、作成時の状態によっては有効性が争われることもあります。ご心配な場合は、早めに公証役場や法律の専門家に相談しましょう。

なお、遺言書があっても、内容に争いが生じたり、兄弟姉妹以外の一定の相続人から遺留分の請求を受けたりする可能性はあります。ご家族の状況や各相続人への配慮も踏まえて内容を検討することが大切です。

当事務所のサービス

遺言書作成サポート

将来の相続人に認知症の方や、認知症が心配な方がいる場合、遺言書があれば、相続のときに成年後見人の選任や遺産分割協議をせずに手続きを進められる可能性があります。財産の確認から遺言書の文案づくり、公正証書遺言の準備までお手伝いします。

当事務所の対応:遺言書に書かれていない財産が残ると、その財産について遺産分割協議が必要になります。記載漏れが出ないよう、財産の一覧づくりから一緒に進めます。土日祝日もご相談いただけます。

任意後見は、将来の代理人を本人が選ぶ方法

任意後見契約とは、本人が、将来判断能力が不十分になったときに備えて、財産管理や生活に関する契約などを任せる人と、任せる内容をあらかじめ決めておく契約です。契約は公正証書で作成します。本人に内容を理解して判断する能力があるうちに準備する必要があります。

本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、任意後見人による代理が始まります。遺産分割協議への参加を任せたい場合は、契約で定める代理権の内容を確認しておくことが大切です。

ただし、契約を結んだだけでは任意後見人がすぐに代理できるわけではありません。また、本人と任意後見人の利益が対立する場面では、別の対応が必要になります。

家族信託は、託した財産の管理に備える方法

家族信託とは、財産を持つ人が信頼できる家族などに財産を託し、契約で定めた目的に従って管理・処分してもらう仕組みです。例えば、親が自宅の管理を子に託し、親の生活に必要な費用に充てることなどが考えられます。

家族信託で管理できるのは、原則として信託の対象にした財産です。認知症の人が自分の財産を託す場合も、契約内容を理解して判断できるうちに準備する必要があります。

財産や手続き家族信託との関係
信託の対象にした財産財産を託された人が、契約の定めに従って管理・処分します。
信託の対象にしていない財産家族信託の契約だけでは、財産を託された人が管理・処分する権限を得るわけではありません。
後から発生した相続の遺産分割協議家族信託を利用しているだけでは、財産を託された人が本人を代理して協議に参加できるわけではありません。

家族信託は、本人の財産管理に備える方法であり、遺産分割協議に参加するための代理権を当然に与えるものではありません。目的に合った方法を選べるよう、財産の内容や家族の状況を整理したうえで、専門家に相談しましょう。

よくある質問

認知症の親の代わりに、家族が遺産分割協議書に署名してもよいですか?

できません。本人に判断能力がない場合、家族が代わりに署名・押印しても、有効な遺産分割協議にはなりません。成年後見人などの法律上の代理人が参加する必要があります。

遺産分割が終わったら、成年後見人をやめられますか?

現在の制度では、遺産分割が終わったという理由だけで成年後見を終えることはできません。原則として、本人が亡くなるか、判断能力が回復するまで続きます。2026年に成立した改正民法で、必要な期間に限って利用できる仕組みに変わる予定ですが、施行されるまでは現在の制度が適用されます。

遺産分割調停で特別代理人を選んでもらう方法は、必ず認められますか?

必ず認められるとは限りません。後見開始の審判を受けていない人について特別代理人を選任できるかは、条文に明確に書かれておらず、家庭裁判所によっては成年後見人の選任を求められることがあります。検討する場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

親が軽い認知症と診断されていても、遺言書は作れますか?

認知症の診断があるだけで、直ちに遺言書が作れなくなるわけではありません。作成するときに、遺言の内容やその結果を理解できる能力があるかどうかで判断されます。後から有効性が争われないよう、公正証書遺言で作成し、必要に応じて医師の診断書を用意しておくと安心です。判断能力が低下する前に、できるだけ早く準備することをおすすめします。

まとめ

相続人が認知症でも、遺産分割の内容を理解し、判断する能力があれば、協議に参加できます。判断能力がない場合は、本人に代わって遺産分割をする代理人が必要で、基本となるのは家庭裁判所に成年後見人を選任してもらう方法です。

ただし、成年後見は遺産分割が終わった後も原則として本人が亡くなるまで続き、専門家が後見人になると報酬を払い続けることになります。遺産分割だけを目的とする場合は、遺産分割調停を申し立て、調停の中だけ本人を代理する特別代理人を選任してもらう方法もあります。認められるかは家庭裁判所の判断によるため、早めに専門家に相談しましょう。

すでに成年後見人がいて、その後見人も相続人である場合は、遺産分割協議書の案を添えて特別代理人の選任を申し立てます。いずれも家庭裁判所の手続きが必要になり、時間も費用もかかります。

こうした負担を避けるいちばん確実な方法は、財産を残す方が元気なうちに遺言書を作っておくことです。ご家族に認知症の方や、将来が心配な方がいる場合は、早めに遺言書の準備を始めましょう。

元気なうちに遺言書の準備を

遺言書があれば、相続のときに成年後見人の選任や遺産分割協議をせずに手続きを進められる可能性があります。財産の確認から遺言書の文案づくり、公正証書遺言の準備までお手伝いします。土日祝日もご相談いただけます。

サービスの内容は遺言書作成サポートのページでご確認いただけます。