妊娠中に夫が亡くなった場合、相続手続きはどうなるのでしょうか。実は胎児にも相続権があります。ですが胎児が無事に生まれてくることを条件としているため、死産だった場合には相続権はなかったことになります。少しわかりにくいので実際の相続手続きをどのように行うべきかを含めて解説いたします。

胎児は相続人に含まれる?遺産相続できる?

妊娠中に夫が他界した場合、胎児も相続人となります。通常、お腹の中の赤ちゃんには権利能力自体はありませんが相続に関しては、胎児にも相続権が発生しますので、胎児の父親の遺産を相続することができます。

ただし、これは赤ちゃんが無事に生きて生まれてきた場合のみに適用されます。もし残念ながら死産で生まれてきた場合には、相続権は遡ってなかったこととなります。ですので夫が亡くなってすぐに相続手続きを開始した場合、胎児を相続人に含めて手続きを行いますが、もし死産だった場合には相続人が変わりますので相続手続きをやり直す必要が出てくるのです。

胎児の出産によって変動する相続人

胎児が無事に生きて生まれてきた場合と、死産だった場合で相続人が異なってきます。胎児が死産だった場合には相続人には含まれず、妻と夫の親や兄弟姉妹が相続人となります。妻というのは婚姻関係にある場合の「妻」を指していますので、婚姻関係のない内縁の妻や、離婚した妻には相続権がありませんのでご注意ください。

胎児が無事に生まれたとき胎児が死産だった時
妻と子(胎児を含む)妻と子(胎児を含まない)
妻と夫の親
妻と夫の兄弟姉妹

このように胎児が無事に生まれてくるか否かで相続人が変わってしまうため、実際の相続手続きでは赤ちゃんが生まれてきたことを確認してから遺産分割協議を行い、相続手続きをすすめるのが良いでしょう。

法定相続人については下記の記事で詳しく解説していますので、よろしければご覧ください。

胎児が無事に生まれてきた時の相続手続き

赤ちゃんが無事に生まれてきた場合、赤ちゃんを相続人に含めて遺産分割協議を行いますが、赤ちゃんは意思表示をすることができませんので、赤ちゃんの代わりに遺産分割協議を行ってくれる「特別代理人」を家庭裁判所に選任してもらう必要があります。

赤ちゃんの母親が相続人ではない場合、つまり夫と婚姻関係でなかった場合には母親が赤ちゃんの特別代理人となり遺産分割協議を行うことができますが、婚姻関係にある場合には赤ちゃんの母親も相続人となります。この場合には母親と赤ちゃんが相続人となり、利益相反の関係となりますので、特別代理人を立てる必要があります。

妊娠中に夫を亡くしてしまった場合、ただでさえ負担が大きいのに相続手続きを行うのはとても大変です。また相続手続きも複雑になりますので専門家にサポートを依頼するのがおすすめです。

胎児が死産だった時の相続手続き

残念ながら死産だった場合には、もともと相続人ではなかったこととなりますので、赤ちゃんを含めずに遺産分割協議を行います。

もし出生前に胎児を含めて遺産分割協議を行っていた場合には、遺産分割協議をやり直す必要があります。

遺産分割協議のやり直しなどを避けるため、妊娠中の遺産分割協議は出産を終えてから行ったほうが良いとされています。

胎児と親の相続における利益相反とは?

相続で注意しなければならない「利益相反」というのは、相続人が複数いる場合に、一方の相続人にとっては利益となるが、他方の相続人にとっては不利益となる関係を指します。

子供が相続人に含まれる場合、子供は法律行為を行うことができないため、遺産分割協議に参加することができません。この場合子供の代わりに大人が代理人として遺産分割協議を進めることになります。

例として、夫が亡くなり、相続人が妻と子(未成年)が相続人だった場合、妻と子供が遺産分割協議を行いますが、子供は未成年のため大人が代理人として遺産分割協議を進める必要があります。もし妻が子供の代理人として遺産分割協議をすすめるとなると、すべて妻が一人で決めることになり、思い通りに遺産分割協議を進めてしまうことが可能となります。

妻にとって利益となるが、子にとっては不利益となる遺産分割が可能となってしまう関係性、これを利益相反の関係と呼びます。

こういったことが起こりうるため、子供が未成年者だった場合には子供の代わりに遺産分割協議を行ってくれる「特別代理人」を家庭裁判所に選任してもらう必要があります。

胎児の相続放棄はできる?

被相続人に借金がたくさんある場合など、相続放棄を考えることもあると思います。胎児は相続人に含まれますので、胎児も相続放棄をすることができますが、胎児は生まれた後でなければ相続放棄することができません。

相続放棄をする期限ですが、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内」に行わなくてはなりません。胎児の場合にはこの世に生まれてから3か月以内に相続放棄または限定承認を行います。

母親と子(赤ちゃん)二人とも相続放棄をするのであれば、特別代理人を子のために選任する必要はなく、母親が子の代理となることができます。もし母親または子だけが相続放棄するのであれば利益相反となりますので、子のために特別代理人の選任が必要となります。

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