親が他界した際に、親が賃貸住宅に住んでいた場合の相続手続きについて解説していきます。
賃借権(家を借りる権利)は相続の対象
家を借りているだけでも「賃借権」という権利が発生します。この賃借権は遺産に含まれ、相続の対象となります。親が亡くなった後、相続人全員が賃借人となります。この時賃借権は相続人の法定相続分に応じた割合で「準共有」することとなります。準共有とは所有権以外の権利を共有することを指します。
そのため、家を貸している大家さんから賃料の請求が来た場合には、全相続人に支払う義務が生じます。
公営住宅の使用権は相続の対象外
賃借権が相続の対象であるというのは、民間の賃貸住宅の場合です。公営住宅の場合には当然に使用権が相続されるわけではありません。
もともと市営住宅や県営住宅などの公営住宅は低額所得者に対して低廉な家賃で住宅を賃貸することにより社会福祉を増進することを目的としているため、入居時にも審査があることが多いですよね。過去にも最高裁の判例が出ていますが、相続人は親が住んでいた公営住宅の使用権を当然には継承しません。
公営住宅の入居者が死亡した場合に、その相続人は、当該公営住宅を使用する権利を当然に承継するものではない。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52464
公営住宅の場合には、独自の規定を設けて、相続人が使用権を継承することができる場合があります。その建物を管轄している地方公共団体に一度問い合わせて、手続きをどう進めるか確認するのが良いと思います。
民間の賃貸住宅の相続手続き
民間の賃貸住宅の場合、全相続人に賃借権が継承されますので、遺産分割協議前であっても大家さんからは家賃の請求は続きます。そのため、今後誰も住まないのであれば早めに契約解除の申し出を大家さんにする必要があります。
この時、相続放棄を検討している方は要注意です。下手に賃料の支払いや解約の申し出をすると遺産を単純承認したとみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があるためです。詳しくは後述します。
もし誰かが継続的に住んでいく場合には遺産分割協議を経て継承する相続人を確定し、大家さんにその旨を伝えます。遺産分割協議で継承する相続人を決めた場合には、その相続人以外の相続人は賃借権を失いますので、家賃を払う義務もなくなり、継承人だけが家賃を払う義務が生じます。
滞納家賃の支払い義務
親が亡くなる前に家賃を滞納していた場合、相続人が支払わなければなりません。遺産分割協議前であれば各相続人が法定相続割合に応じた家賃を支払う必要があります。
実際は相続人の内誰かが全額を大家さんに支払い、他の相続人に対して、それぞれの法定相続割合に応じた額を請求するというケースが多いです。
例えば相続人が長男と次男の二人であった場合、長男が滞納家賃の全額400,000万円を大家さんに支払った場合に、長男は次男に対して建て替えた200,000万円を請求するという形です。
また、遺産分割協議で自由に誰が支払う義務を負うのかを決めることもできます。
現状回復義務と敷金
賃貸物件の場合、退去時に原状回復義務があります。多くの場合入居時に敷金をおさめている場合があります。敷金をおさめている場合には、敷金が原状回復費にあてられ、足りない分は別途支払う必要がありますし、敷金が残った場合には敷金がかえってきます。
現状回復義務と返還された敷金ともに相続人が法定相続割合に応じて支払いや敷金の受領をしますが、誰が義務と権利を継承するのか遺産分割協議で自由に決めることができます。
相続放棄するなら契約解除はしないほうが良い
相続放棄を考えている場合には、親の賃貸物件に対して何も行動をとるべきではありません。もちろん契約している期間は賃料が発生してきますから、早く支払ってしまいたいという気持ちが生じるのは当然のことです。
しかし賃貸物件の解約は、相続財産の処分にあたる可能性があります。もし相続財産の処分に該当するとみなされると相続放棄ができなくなってしまいます。
また、滞納家賃がある場合も同様で、返済してしまうと相続債務の承認をしたとみなされる可能性があり、相続放棄ができなくなってしまう可能性があります。
相続放棄を考えている場合には、ご自身の判断ではなく、専門家の判断にゆだねるのが安心です。早めに司法書士や弁護士に相談することをお勧めします。